conclusion
□はーとびーと
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「ここんとこ毎日だよな。なんかあったのかな?」
「……さぁ?」
私がしらばっくれて言うと、幸彦くんはこっそりスタジオの中を覗き込んだ。
中では、またミスをした神田さんが、もう一回、と言って演奏を始めていた。
吉岡さんと野田さんも、嫌な顔せずに付き合う。三人とも汗びっしょりだ。
「まぁ、あの方が神田さんらしくていいけど」
そう呟いた幸彦くんを見ると、ちょっと笑っていた。
そっか。
「……幸彦くんも心配だったんだね、神田さんのこと」
笑顔で言うと、幸彦くんは少し顔を赤らめて私を見た。
「……ま、まぁ、職場の先輩だし……神田さんの元気ないと張り合いないしな…」
「え?」
後半が聞き取れなくて聞き返すと、幸彦くんは益々顔を赤くして立ち上がった。
「なんでもねぇよ! てかそろそろシフトだろ? 準備しなくていいのか?」
言われて、私はまだ着替えていなかったことに気付いた。
「はは、忘れてた」
「ったく、早く着替えて来いよ」
「うん」
私は立ち上がって、もう一度スタジオから聞こえてくる音楽に耳を澄ませてからスタッフルームに向かった。
頑張れ、神田さん。
そう思いながら。