conclusion
□四季折々
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と、彼女が短く声をあげた。驚いて顔を上げるとまた目が合う。でもすぐに彼女の方から顔を反らして、また木に向かった。
「見てください、あそこ!」
そう言って指差された方を見ると、満開の花の中に一つだけまだ咲いていない蕾を見つけた。
「まだ咲いてないのもあったんですね」
「……」
「あ、お願いごとしません?」
「……願いごと?」
急な提案に眉根を寄せて聞き返すと、彼女はまたしても笑顔で言う。
「ええ。これからの生活で、悲しいことが少なくなりますようにって。悲しみの先払い」
そんなこと無意味だよ。
頭の中で思っても、純粋な瞳の彼女には言うに言えなくて、結局彼女が先に始めてしまった願いごとに便乗して、僕も桜の木に向かって手を合わせた。
悲しみの先払い。そんなことができるなら苦労なんてしない。
だけど、そう考えたことで、これからの生活に少し悲しみが減ったように錯覚できればいいと思う。
この蕾が満開になるころ、僕も新しい一歩を踏み出せるのだろうか。
見上げた木に一つ問い掛けて、答えを出すのは自分自身なのだと、そう言われた気がした。
fin*