conclusion
□四季折々
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口には出なくても顔に出る。
生憎僕には、表情を隠してくれるマフラーがない。
あるのはせいぜい前髪くらいだけど、この前散髪に行ったばかりなので役に立たない。
「ちょっ、待てって」
慌てて彼女を追い掛けるけど、彼女はずんずん進んでいく。
手袋をはめた手を思いっきり振って。
その手を掴んで彼女を止めさせる。
そのまま引っ張ってこっちに向けさせたら、していた手袋がはずれてしまった。
「「あ」」
声がハモる。
呆然とする僕の手には、小さな赤い手袋。
「……返して」
彼女の白い手が僕に向かってくる。
なるほどその手じゃ寒そうだ。
だから、そう。
躍起になって手袋を取り返そうとする君の手を捕まえて、
こっちの方があったかいんじゃない?
なんて僕のポケットに君を招待。
だから、手袋なんかに頼らないで。
いつだってそう。
君の右手をあたためるのは、僕の左手。
fin*