□拍手の住人たち。
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■年始編




 日付が変わってすぐ、ケータイが震えた。

 こんな夜更けに、不審に思いながらも開くと、登録されてないアドレスだった。

 スパムか。大体なんでこっちのアドレスが知られてるんだ。個人情報漏洩も甚だしい。

 思い、消そうとしたが、アドレスを見るとどうやらそういう類ではないようだった。

 milky……river?

 なんだこれは。天の川と入れようとしたのだろうか。にしても、天の川はmilky wayだろう。

 中途半端に知識をかじった奴がこんな間違いをするんだ。

 馬鹿馬鹿しい。

 ため息をつき、見知らぬ差出人に嘲笑を送る。

 消す前にこの馬鹿がどんな迷惑メールを送ってきたのか見てやろう。


《あけおめ! ことよろ!》


 ……は?

 メールにはそれしか書かれていなかった。

 ケータイ片手に思わず固まる。

 アドレスがでたらめな上に内容も破天荒だ。どうにも救いようがない。


「たく、どこのどいつだ、こんなメール……」


 思わず口に出して、ふと、一人だけ心当たりがあって考え込んだ。

 まさか。

 あいつは俺のアドレスなんて知らないはずだ。そもそもあいつだとして、こんなメールを送ってくる道理が分からない。

 あけおめ? ことよろ?

 そんなの、全く関係ない。

 だが、


『あんたお礼もまともにできないわけ?』


 クリスマス前にあいつが言った言葉を思い出した。

 もしこれがあいつからだとして、返信をしなかったら休み明け何を言われるか分からない。

 だがこれが全く知らない奴からのメールだとすれば、本当に送り返す道理はないわけで。


「……くそっ」


 俺は悪態をついて返信ボタンを押した。新しくメーラーが立ち上がる。

 後でとやかく言われるのは嫌だ。とりあえず返信しておく。もしあいつじゃなかったとしても、それはそれで一応お礼すべきなのかもしれないし。

 タイトルは「Re:」のまま、本文を入力する。

 あけおめ? ことよろ?

 そんな言葉は使わない。使いたくない。

 俺はちゃんとした日本語を使ってやるぞ、ちくしょーが。


《あけましておめでとう。今年もよろしく》


 誰に届くのかなんて分からないまま、俺は送信ボタンを押した。

 できればあいつの元に。飽くまで赤の他人よりはマシという意味だが。

 年の始め。

 そういえばメールでの年賀状なんて初めてもらったな、と思いながら布団にもぐりこんだ。

 今日から新しい年が始まる。


 A Happy New Year.
 今年もよろしく。


*年始編終了*


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