置
□拍手の住人たち。
5ページ/5ページ
■年始編
日付が変わってすぐ、ケータイが震えた。
こんな夜更けに、不審に思いながらも開くと、登録されてないアドレスだった。
スパムか。大体なんでこっちのアドレスが知られてるんだ。個人情報漏洩も甚だしい。
思い、消そうとしたが、アドレスを見るとどうやらそういう類ではないようだった。
milky……river?
なんだこれは。天の川と入れようとしたのだろうか。にしても、天の川はmilky wayだろう。
中途半端に知識をかじった奴がこんな間違いをするんだ。
馬鹿馬鹿しい。
ため息をつき、見知らぬ差出人に嘲笑を送る。
消す前にこの馬鹿がどんな迷惑メールを送ってきたのか見てやろう。
《あけおめ! ことよろ!》
……は?
メールにはそれしか書かれていなかった。
ケータイ片手に思わず固まる。
アドレスがでたらめな上に内容も破天荒だ。どうにも救いようがない。
「たく、どこのどいつだ、こんなメール……」
思わず口に出して、ふと、一人だけ心当たりがあって考え込んだ。
まさか。
あいつは俺のアドレスなんて知らないはずだ。そもそもあいつだとして、こんなメールを送ってくる道理が分からない。
あけおめ? ことよろ?
そんなの、全く関係ない。
だが、
『あんたお礼もまともにできないわけ?』
クリスマス前にあいつが言った言葉を思い出した。
もしこれがあいつからだとして、返信をしなかったら休み明け何を言われるか分からない。
だがこれが全く知らない奴からのメールだとすれば、本当に送り返す道理はないわけで。
「……くそっ」
俺は悪態をついて返信ボタンを押した。新しくメーラーが立ち上がる。
後でとやかく言われるのは嫌だ。とりあえず返信しておく。もしあいつじゃなかったとしても、それはそれで一応お礼すべきなのかもしれないし。
タイトルは「Re:」のまま、本文を入力する。
あけおめ? ことよろ?
そんな言葉は使わない。使いたくない。
俺はちゃんとした日本語を使ってやるぞ、ちくしょーが。
《あけましておめでとう。今年もよろしく》
誰に届くのかなんて分からないまま、俺は送信ボタンを押した。
できればあいつの元に。飽くまで赤の他人よりはマシという意味だが。
年の始め。
そういえばメールでの年賀状なんて初めてもらったな、と思いながら布団にもぐりこんだ。
今日から新しい年が始まる。
A Happy New Year.
今年もよろしく。
*年始編終了*