□拍手の住人たち。
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■クリスマスプレゼント編



「遅い」


 そう呟いた私の声は、誰にも聞かれず薄暗い闇夜に消えた。


 今日は12月25日。私とあいつ──片岡悠星の勝負の日。

 勝負といっても何も果たし合いをするわけじゃない。どちらのプレゼントが素晴らしいかを競うだけ。

 ……なんて、ただプレゼント交換したいだけなんだけど。

 というわけで、私は学校の前でかれこれ十時間は待っている。それなのに、あいつは来ない。

 まさか、忘れてる?

 いやいや、昨日帰るときに確認したからそれはない。


「せっかく朝から気合いばっちりだったのに……」


 9時なんて早すぎかな、と思ったけど、あわよくば街行ったりとかできないかなとか期待したりしたのに。

 宵闇が広がる空の下、締め切られた校門の前で一人待ち惚け。吐く息は雪の色だし、鼻なんてトナカイばりに真っ赤だ。

 かじかむ指先でケータイを取り出すと、時刻は20時を回ったところだった。

 見るとメールが一件。友達から。タイトルは『メリークリスマス!』。

 デコレートされたメールに、特大ケーキの画像が添付されている。

 ちくしょー。幸せなクリスマス送りやがって。私なんか寒空の下で待ち惚けだぜ。

 罪のない友達に対して悪態をつく。

 適当に返信して、ケータイをしまった。

 うちの学校は山の上にあるので、遠くに賑やかな町並みを望むことができる。
 光る街は今日が恋人たちの日だということを告げる。

 恋人?
 違う。私とあいつはそんなんじゃない。

 そうか、だからあいつは来ないのか。


「……馬鹿みたい」

「全くだ」


 自分自身に呟くと、急に声が聞こえた。振り向くと、部屋着にマフラー一枚巻いたあいつが立っていた。


「……なんで来たの」

「は? お前が呼んだんだろ」

「そうだけど」


 だって、もう来ないと思った。


「まぁいい。ほらよ」


 ぶっきらぼうに言って緑色の包みを投げてくる。手がかじかんでうまく受け取れない。あいつの舌打ちが聞こえた。


「ドジ」

「っ、しょうがないでしょ。十時間もここにいたんだから」

「はっ?」


 拾いながら言うと、あいつは目を丸くした。


「何よ?」

「お前、朝の9時?」

「そうよ」

「夜じゃなくて?」

「…………」


 もしかして、もしかしなくても。

 お互い午前と午後を勘違いしていたようで。それなら今になってやってきたのも頷けるわけで。


「お前、本当に馬鹿だな」

「う……」


 そこまで指定しなかった自分も悪いので即座に反論できない。


「で、でもっ、夜の9時に待ち合わせすると思う方も馬鹿だと思うけど?」

「クリスマスといえば夜だろ」


 当然のように言い返されて、何だかまた言葉につまる。
 てか意外にロマンチストだな、こいつ。


「どうでもいいけど、俺の分は」

「えっ、あ、あぁ」


 つまんなそうな顔、でも催促はするんだな。

 ポーチから取り出して渡す。


「ちっさ」

「うるさいな」


 文句言うならあげない、と言えるけど、そうすると私の分を返さなきゃいけなくなるので言わない。

 そういえば、何が入ってるんだろう?


「……開けていい?」

「ん? ……あぁ」


 一応聞いてから開ける。うまく動かない指で苦戦しながらも開けると、中からは淡いピンクのマフラーが出てきた。


「…………」

「な、なんだよ。文句あるなら返せ」


 無言で見つめていたら、少し不機嫌な顔をしたあいつが手を伸ばしてきた。


「そんなこと言ってないでしょ」


 本当は嬉しい。素直にありがとうって言えればいいのに、私にはそれができない。

 あいつは小さく舌打ちをして、私が渡したプレゼントを目の高さまで持ってきて振った。

 開けていいか、とあいつなりに聞いているらしい。


「どうぞ」


 少し警戒するように開けていく手を黙って見つめる。
 あいつが取り出したのは、ブルーに輝く星が連なったキーホルダー。お店で見たとき、あいつみたいって思って買ったやつ。


「ふーん」

「何よ」

「なかなかいい趣味してんじゃん」


 ふっと笑ったあいつに、また思うように言葉が出てこなくて、つい憎まれ口をたたく。


「あんたもね」


 素直じゃねぇな、とまた笑われた。

 あぁそうか。私が一番欲しいプレゼントはこの笑顔かもしれない。

 粉雪舞い踊るロマンチックなホワイトクリスマスじゃなくてもいい。

 そんなクリスマスをくれたあいつは、まるで私だけのサンタクロース。

 素直じゃない私はこんなこと口に出せないけど、心の中なら言えるんだ。

 こんばんは、サンタさん。……大好きだ、ちくしょー。



*クリスマスプレゼント編終了*
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