□拍手の住人たち。
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■もうすぐクリスマス編



「もうすぐクリスマスだねぇ」


 そんなことを言い出したのは、隣の席の女子、七瀬凪。

 読んでいた雑誌から視線を上げてそっちを見ると、何故かにやにやと笑っている。


「ふぅん……」


 適当に答えて視線を戻すと、「は? それだけ?」と不満げな声が聞こえてきた。

 ……面倒臭いな。


「クリスマスだから何」


 雑誌を伏せてから奴を睨むように向き直ると、何故か奴は更ににやにやと笑う。


「クリスマスといえばプレゼントじゃない?」

「そうかもな」

「だから何か頂戴」

「は?」


 思わず変な声が出る。

 クリスマスだからって、なんで俺がお前に何かプレゼントしなきゃいけないんだ。


「なんで俺が」

「だってクリスマスといえばプレゼントだって言ったじゃない」


 屁理屈。


「そうだとしても俺がお前に何かやる道理がないだろ。そんなもんサンタにでも頼めよ」

「えっ、あんた高校生にもなってサンタクロース信じてるの?」


 “お子様”と馬鹿にされるような視線で見下ろされて、俺はいよいよ雑誌を完全に閉じて奴に向き直った。


「あのな、俺が言ってるのはそういうことじゃないだろ」

「じゃあどういうこと?」

「もっと別な奴にプレゼントねだれよ」

「えーやだ」


 なんなんだコイツは。


「私はあんたのプレゼントが欲しい」

「だからお前にやる理由がないって言ってんの」


 頭の悪い奴は苦手だ。

 なんで何回言っても理解できないんだ。

 俺としてはコイツの頭の中が理解できないが。


「んーじゃあさ、私もなんかあげるから、あんたもなんか頂戴よ」

「はっ?」

「それともあんたはお礼もまともにできないわけ?」


 相変わらず上から目線のアイツは、蔑むような目で俺を見た。


「面白い。やってやろうじゃねぇか。お前より豪華なもん持ってきてやろうじゃん」

「言うわね。言っとくけど私のはそんじょそこらのプレゼントとは訳が違うわよ」

「そんな大口叩いて後で吠え面かくなよ?」

「その台詞そっくりそのままお返しするわ」


 お互い不適に笑う。

 このやろ、絶対文句言えないようなもん用意してやる。

 俺は窓の外に視線を投げて、作戦会議に没頭した。

 外は例年には早い雪が降り始めていた。





「なんか、相変わらずよねーあの二人」

「まぁ、楽しそうだからいいんじゃない?」


 窓際で不適に笑う男女を遠目に、こそこそ話す女子二人。


「結局自分が思う最高のプレゼントを交換するってことになってるの気付いてるのかな?」

「アイツ頭はいいけど、挑発に弱いからね。あ、凪ちゃんガッツポーズしてる」

「ま、凪ちゃんの方が一枚上手ってことか」

「結局片岡も馬鹿だよねー」


*もうすぐクリスマス編終了*

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