* 今月の言葉 (作品集) *

□「お題―1」
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01.忠誠





幼い頃の約束。
見えない契りの糸は何よりも頑丈で、何よりも二人を強く繋いだ。





「咲(さき)、午後の予定は?」


咲と呼ばれた女性は、黒く長い髪の毛を耳にかけながら、手帳を開く。


「一時から会議。三時から全校集会。五時から生徒会。」

「…全校集会って、またテスト終了後に行われる労いか。…俺の話は必要ないだろ。校長の話で十分足りる。多すぎるくらいだ。」


光喜(みつき)は重厚な黒の肘掛椅子に座りながら、つまらなそうに呟いた。

ここはある特殊な学校。
国の防衛機関要員育成の軍事施設。要は、戦闘員の訓練所。
国にいくつも点在するこの施設は、一般人から選抜された才ある選りすぐりの者たちが戦闘のあらゆる技術を学んでいる。

その戦闘員選抜は5歳から行われる。
人より秀でる才能を持つ者は幼い頃からその片鱗を見せるため、早い段階で戦闘員候補として強制的に施設に入れられるのだ。
そして選抜された子供たちは、施設から出ることは許されず、世間とは別離され育っていく。

世間と切り離された世界。
それは施設内のみの環境によって創られた新たな国。

そのトップに立つのが光喜だ。


「だいたいテストで疲れてる生徒をわざわざ集めてどうする?全校集会なんざー見方を変えればただの拷問さ。」


「テスト」とは、月に一度行われる実技試験の事だ。
実践ながらに行われる試験は、ひとつ間違えれば死をも招く危険なものだ。


「仕方無いでしょう。それもこの施設内のルール。守らないものに命の保証はないですから。」

「…だから気に食わないんだ、こんなシステム。」


施設には軍が決めた基盤となるルールがある。
それを守らなければ有無を言わさず“死”が待っているのだ。
細かな制限はないものの、必要最低限、生徒を施設内で拘束することのできる内容となっている。
そのルールを守っていれば、あとはどんなことをしても構わない。それが軍の方針だ。


「…俺がどんなに足掻いたところで、変えられないルール。」


光喜はあくまで生徒達のトップであり、施設を運営する軍の上層部の決めたルールを変えることはできない。
いわば、光喜が管理できるのは生徒の生活を仕切ること。それだけ。

結局自分たちも、ショーケースで飼われてモルモットとかわりはしない。
光喜は色素の薄い短い髪の毛を掻き上げると、天を仰いだ。


「だから変えるのでしょう?この小さな“世界”を。」

「まあな。命がけの大博打。…お前は―…ついて来るなって言ってもついてくるんだろうな。」


咲はにこやかな笑みを見せると、長い髪の毛を一つに束ね、後ろで結った。
そして光喜の前に片ひざを立てて膝まづいた。


「幼い頃よりの誓い、私はあなたを守る盾であり、矛。決して離れはしません。」


顔を上げた彼女の眼差しは凛としていた。


「あなたを守れるならば、私は笑って死ねます。」



その忠誠は揺るぐことのない意志をもって紡がれた。





→02.証明(準備中)
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