* 読み切り BL *

□お隣さんの恋2(出会い編)
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「お隣さんの恋 2」





宮間 圭吾(みやま けいご)は一人ご機嫌に肉じゃがを作っていた。


趣味が料理なんて笑われるかもしれないが、これが俺の楽しみの一つ。
母は俺が5歳の頃に亡くなり、父と弟、俺の3人暮らしをしていた。


男手ひとつで俺達を育ててくれた父。
そんな父を支えたくて、家事全般はいつも俺がこなしていた。
当時の弟は3歳。
自分がしっかりしなくてはと、幼いころから家事をしてきたおかげで対外のことは一人でこなせるようになった。


特に料理は、父や弟が美味しそうに食べてくれるのがなによりも嬉しくて。
俺は作る楽しみだけじゃなく、食べてもらえる喜びも知った。

それからは、趣味は料理。

なんて言えるほど、料理が好きになっていた。



そして最近、また一つ楽しみが増えた。


隣に住む、市原 武。


彼に料理を食べてもらうのが新たな楽しみの一つ。

第一印象は取っ付きにくい、ぶっちゃけ俺の苦手なタイプだと思った。
無口で他人に無関心な感じ。
一番合わないと思っていたのに…






「…そんなところで、何やってんだ?」


自分の部屋の前で、蹲っていた俺に話しかけてきたのは武だった。
予想外の人物に話しかけられて一瞬思考が停止する。


「おい、聞いてんのか?」

「あっ、俺、部屋の鍵失くしちゃってさ。管理人に連絡したんだけど、飲みに出てんだよ。」


慌てて言葉を返す俺に対し、武は落ち着いた様子で返事を返す。


「…すぐには帰って来れねぇだろ。」

「あぁ。…まぁでも、何時間もかかるわけじゃないし。」


このあたりに時間を潰せるようなお店は無い。
出かけて管理人と入れ違いになったら、それこそ面倒くさい。
帰りを待っていた方が無難である。


「寒みーけど、待つしかねぇってこと。」


寒さに震え、苦笑いしながらそう言う圭吾に、武は思わぬ言葉を口にした。


「なぁ、俺の部屋で待ってれば?」


驚いた。

一番予測していなかった事態にどう反応していいか戸惑う。


「どうすんだよ。来るの?来ねぇの?」

「えっと。それじゃあ…待たせてもらってもいい?」


武は無言で鍵を開け、顎を動かし入ってこいと促す。


「お邪魔します。」


中に入るとまず目についたのが、靴。
綺麗に並べられ、先ほど脱いだ靴も揃えられている。
綺麗好きで几帳面のようだ。

もちろん部屋の中も、男の一人暮らしとは思えないほど綺麗だった。
棚にはたくさんの本が並んでいる。
その中には、自分が読んだことのある本も数冊混じっていた。

なんだかおかしな気分だ。
全く合わないと思っていた相手とこんなところで共通点を発見してしまった。
なんだか少し嬉しい。


「おい。」


その声に振り返ると、毛布を胸元に投げつけられた。
投げつけた本人はいつの間にか服を着替えており、そのまま台所に向かう。
冷え切った体に毛布の暖かさが心地よかった。

台所から帰って来た武はマグカップを圭吾に差し出す。
美味しそうな湯気を立てるホットレモンを受取りながら武に話しかけた。


「サンキュ。てか、めちゃくちゃいい奴なお前。」

「…別に。」


あっ、照れてる。

素っ気ない返答であったが、その中に見つけた僅かな表情の変化にドキリとする。
もうちょっと見ていたい…
そんな思考は、武が台所に向かったことで遮られてしまった。
夕飯の準備でもするのだろう。


「あっ!!」

「?!」


圭吾の声に驚き、武がビクッと肩を揺らす。
わっ、可愛い…じゃなくて、


「ビックリさせてゴメン。あのさ、部屋に入れてくれたお礼に夕飯作らせて!」

「へ?」

「俺、料理得意なんだ。だから…作っていい?」


武の元へ駆け寄り、目をランランと輝かせて問いかける圭吾。
それを見て武は思わず噴き出した。
圭吾は訳がわからずキョトンとしている。


「ワリー。なんかお前犬みたいで…変。」

「!!変って。失礼…な…」

「? どうした?」

「いや、なんでもない。」


とっさに圭吾は顔を背けた。

だって、あんな笑った顔。
可愛すぎるんだけど!どうしよう心臓バクバクいってるし。


「んじゃー、作って貰うかな、夕飯。」


その言葉に反応して、圭吾の表情がパッと明るくなる。






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