* 読み切り BL *
□鈍感な自覚(短編)
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「鈍感な自覚」
キーンコーンカーンコーン
授業終了のチャイムが鳴ると同時に教壇に立つ西原から指名を受ける。
「杉村。この教材、理科室まで運んで置いてくれ。」
「げっ、また俺かよ。」
「文句言うな。理科担当はお前だろ。」
杉村はしぶしぶ席を立ち、教壇の方へと向かう。が、その教材の多さに小さなため息をつく。
どう考えても3往復はしないといけない量である。
「これ全部よろしく!っと言いたいところだが、親切な先生が半分運んであげよう。」
とか何とか言いながら、西原は教材を半分抱えて教室を出る。
何が親切だ。もともと自分の教材なのだから運んであげるもなにもない。
残りの教材を持ち、西原の後を追った。
理科室に着くと西原が教材をしまうように指示する。
杉村はビーカーやら試験管が並べられている棚の横にある本棚に教材を入れていく。
西原は毎回授業で大量の資料を使う、その度に理科係担当の杉村が片づけているのである。そのため片付けも慣れた手つきでこなしていく。
「てか、何でこんなに教材使う訳?」
不意に杉村が問いかけた。もっと少なくしてくれれば俺が運ばなくて済むのに…。
「そりゃー、資料がある方が教えやすいし、生徒も覚えやすいだろ?」
「…まーそうだけど。」
正論だが納得いかないという顔をしてむくれる杉村に、今度は西原が問いかけた。
「…理由はもう一つあるけど。…聞きたい?」
単なる好奇心。ほかにどんな理由があるのか知りたかった。
杉村は躊躇なく聞き返した。
「何だよ、もう一つの理由って。」
「杉村が理科係だから。」
…は?
意味がわからない。何で俺が理科係だと教材が増えるんだ?
もしかして、ただの嫌がらせ…か?
西原は、意味がわからず不快感を露わにする杉村に近づき、眼を見据えて話しだす。
「正確には、杉村と話す時間が欲しかったから。そうでもしないとこうやって話したりできないだろ?」
「はぁ?意味わかんね。何で俺と話したいわけ?」
「やっぱ鈍いな、お前。まっ、そこが可愛いんだけど。」
西原は杉村の頬に手を添えると、そのままおでこにキスを落とした。
!!!
いきなりの出来事に驚きを隠せない杉村は目をパチクリさせる。
そんな表情を見て、西原はクスクスと笑いだす。
「なっ、なに笑ってんだよ・・!!てか、なんでデコ…///」
そこで言葉がつまり、顔が熱くなる。訳がわからないはずなのに、気持ちばかりが高ぶっている。心臓の音がうるさい。
西原を見ると、優しい笑顔でこちらを見ていた。
目を合わせ続けられなくて、フイッと目を反らした杉村に、また西原はクスクスと小さく笑う。
「お前、可愛すぎ。無意識もここまでくると犯罪だろ。」
「…野郎に可愛いってなんだよ。可愛くねーし。」
「そうゆう反応が、だろ。…なぁ、キス、していい?」
西原にじっと見つめられ石のように動けない。目がそらせない。
そっと触れた唇の温もりが優しくてドキドキする。離れてしまうのが名残惜しくて。
「…その表情、反則。抑え効かなくなりそう。」
「!!…わけわかんないこと言ってんな!!」
「わけわかんないことじゃなくて、お前が好きだって言ってんの。」
全身が熱くなる。
なんで俺、喜んでんだよ!男だぞ?!しかも教師。なのになんで…
「自覚した?先生のこと、好きって?」
「?!」
「お前、俺のことばっかり見てたろ。告られなくてもわかるくらいオーラ出しやがって。…おかげで俺の方がお前に惚れちまったじゃねーか。」
少し顔を赤らめながら話す西原を見て、また喜んでいる自分がいる。
やっぱり俺、西原が…
好きなんだ。
自覚してしまうと恥ずかしくてどうしようもなくなる。
西原は真っ赤になった杉村を優しく引き寄せるとそっと耳元で囁いた。
「…好きだよ、杉村。お前は俺のこと、好き?」
わかっているくせに。そう思っても優しく囁かれて逆らえるはずがない。
だって俺は…西原が
「…好き、だ///」
その言葉を聞いた西原が凄く嬉しそうな顔をするから、つられて俺も嬉しくなった。
end