* 読み切り BL *

□一番近くて遠い存在(長編)
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第一話「小さな心の音は空に」





誰もいない朝の教室。時刻は7時。この朝の清々しい空気が俺は好きだ。
夕日に照らされる放課後の教室とはまた違う、綺麗な空間だ。

そんなことを考えながら空を眺める。
いつもと変わらない朝。だが、今日は少し違った。


ガラッ


急に空いた扉の音に驚き、ビクッと肩が揺れる。


「あれ?…神谷?早いな。」


振り返るとそこには山本がいた。
眠そうな顔をしてのそのそと自分の席に向かう。


神谷は戸惑った。山本は学校に来てもほとんど寝ているし、席も離れている。
そんな相手と急に二人きりになったものだから、どう接すればいいのかわからなかったのだ。

そんな神谷に気づいたのか、山本は席を立ち、こちらへと歩いて来た。
そして近くにあったイスを引っ張り出し、背もたれを抱え込むようにして座ると窓の外を眺める。

山本はぽつりと言った。



「空、青いな。」



とても単純で当たり前のこと、しかし、そんなことを言われるとは思っていなかった神谷は目を丸くしてキョトンとしてしまった。


「?なんか変なこと言った?俺。」


山本は返事を返さない神谷を不思議そうに見据える。
ハッっとした神谷は急いで返す言葉を探した。


「あっ。えっと、うん。綺麗だよね。」


少しおどおどしながらも笑顔で答えた神谷に山本は「だろ?」と言って微笑み返してきた。




トクン




その時、心臓が大きく鼓動を刻んだ。
感じたことのない感覚。
山本に笑い掛けられた瞬間、全身の血が一気に体を駆け巡るような感覚。


「顔、真っ赤。」

「!! いや、なんでも無いよ!大丈夫。」


何が大丈夫なのか自分でもわからないくらい慌てふためく神谷の横で不思議そうな顔をしている山本。


「まっいいや。俺これから寝るからココの席の人来たら起こして。」


そう言い終わらないうちに山本は突っ伏して寝始めてしまった。
まだ、体の熱が冷めない神谷は落ち着くために空を見た。

綺麗な青だ。


「うん。青くて…キレイだ。」


そう呟いた。

その雲ひとつない空は、いつも見ている空とは違う色をしているように感じた。





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