Do you…(ry

□10.是非は腕の中にて
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「涼太!起きてってば!講義遅れるよ!」

「ん゙ー…」


あれから私たちは大学生になっていて、もう来年の春卒業する
高校卒業と同時に涼太のモデルの仕事で稼いだお金と私のバイト代とで、同じ部屋で二人で暮らしていた
だから、こんな朝ももうすっかりお馴染みで
急いでご飯を食べて大学へ向かった


―――――――


「今日もお仕事あるんでしょ?」

「うん、ごめん」

「早く帰ってこれる…?」

「あー…、っと。今日バラエティーの生だから遅くなるっスわ」


最近になっても涼太の人気は衰えてなくて近ごろはモデルだけでなくテレビの仕事も増えてきて
学校も変装して通ってる


「そ、…っか。頑張ってね!」

「ホントごめん、」


ちゅ、と軽くキスを落とされて顔を赤くした
笑顔で送りだすのも私の仕事
仕方ない
お仕事だもん
今日が記念日だって、そんなの関係ないもんね

少し寂しい気持ちになりながら運転席に座るマネージャーの伊月さんと涼太に手を振った


――――――――


早めにご飯とお風呂を済ませ、テレビをつける
ちょうど涼太がやっているCMが流れて画面を食い入るように見つめた


「…かっこいー……」


思わず漏れた溜め息
本当に、かっこいい
普段ヘタレっぽいところばっかり見ているから、テレビを通すとグンとカッコ良く見える

もうすぐ涼太の出るバラエティーの始まる時間
遅くなる、と言った日は大概日付が変わってから帰ってくる

ホンモノの涼太が居ない代わりにテレビをじっと見つめていた


「…涼太のばか…今日は、記念日なのに…」


そう言ったって仕方がないことがわからないくらい子供でもバカでもない
でも寂しさは募るばかりで
ぐじゅ、と視界が歪んだ


『今も絶えず人気の黄瀬くん!そんな黄瀬くんを丸裸にしちゃおう企画〜!!』


涼太の企画が始まった
涙を拭いて、またテレビにかじりつく


『まず最初の質問!』


次々と質問が投げかけられ、それに答えていく涼太
私が知ってることばっかりで、スタジオの女の子たちのへぇーって声が私の優越感を膨らませた


『さてさて、アイドルみたいだけどアイドルじゃない黄瀬くんは、恋愛禁止!なんてことはないでしょう!ズバリ、真相は!?』

『こ、恋人、ですかぁ?』


困ったように人差し指で頬をかく涼太
どきんどきんと胸が鳴る


『それより、今飼ってる猫に夢中なんですよ』

『猫?』

『それがもうすごく可愛くって』


…猫なんてうちにはいない
どういうことなんだろう


『ボクとその猫すごい似てるんスよ、そりゃもう面白いくらい』

『へぇ、例えば?』

『まず顔でしょ』

『顔って(笑)』


ドッと笑いが巻き起こる


『性格も似てるんスよ。好きなものとか嫌いなものとか。んでケンカの仕方とか』

『猫とケンカするの?』

『しますよー!もっぱらボクが怒られてるんスけど』



ますますわからなくて、首を傾げているとCMに入った
涼太はいつ帰ってくるのか、それが気になってマネージャーさんに電話を掛けた


「こんばんは、伊月さん」

『こんばんは、静香ちゃん。どしたの?』

「いきなりすみません、今日涼太って、何時くらいに終わる予定ですか?」

『え?今日は結構前に帰ったはずだけど?』

「え?今日バラエティーの生があるって…」

『今日やってんのは録画だよ』


話が行き違ってる
どういうこと…?



「そ、でしたか。すみません、お忙しいのに」

「(…なんか、ヤバい?)あ、はは、いいよ、気にしないで」


涼太が、嘘をついてる
CMが終わってまた涼太の話が始まったけど耳を通り抜けるばかり


やっぱり、妹とレンアイなんておかしいって気付いたのかな
神様が悪いことだって涼太に気づかせたのかな
バチが、当たったのかな
涼太の普通の幸せの邪魔したから


他の女の人と笑いながら歩く涼太が浮かんで涙がこぼれ落ちた


『愛してる』



「え、」


聞こえたのは涼太の声
思わず顔をあげると真剣な顔した涼太が画面の向こうにいた


『いやー、そんな顔で愛の言葉を貰うのが猫ちゃんだなんてうらやましいですね』


「猫ってね、静香のことなんスよ」

「え、」


ふわりと何かに包まれて耳元で聞こえたのは更にクリアな涼太の声


「テレビじゃ堂々と自慢できないから、猫ってことにしてノロケまくっちゃった」

「りょ、う…た…?」

「ただいま」


私を抱きしめる腕を突っぱねて涙を乱暴に拭く
その姿をみた涼太はギョッと目を剥いた


「えっ、ちょ、なんで泣いてるんの?」


「ばか、嘘つき!仕事って言って、どこ行ってたの!」


面倒な女になりたくなかった
なのに口からこぼれ落ちる言葉は私の意思とは真逆で
言葉とともに涙がボロボロ流れた


「伊月さんが、ずっと前に涼太帰ったって、」

「ご、ごめん!ちょっと遠かったから」

「遠かった…?」

「これ、作ってもらってて、できあがるのが今日だったから貰いに行ってた」


するりと指に通されたのはシンプルなデザインのシルバーリング
オーダーメイドなんスよ、なんて笑いながら見せられた指輪には私と涼太の名前


「静香のこれから、全部ください」

「りょう、」

「大切にする、ずっと」

「…っ…!」


また涙があふれる
今度は嬉しくて、嬉しくて、
疑った自分が恥ずかしい
ただ頷いて涼太に抱きついた


「たとえ許されないことだとしても、後悔はないよ」

「うん」

「静香だけが全てだから」

「私も、私もだよ」





是非は腕の中にて


あるのはきっと幸せ



HAPPY END

→アトガキ             11/02/07

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