銀魂&春夏秋冬

□もうプレゼントはいらないよ
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「うううん⋯⋯!」

「気張ってねぇではやく決めなせェ」

「なっ⋯⋯失礼しちゃいますね!気張ってなんかないです!」

「近藤さんならテメーから貰ったもんなら何でも喜んでくれるって」


今日はクリスマスプレゼントを買いにデパートへ向かった。先で、たまたまでくわした沖田さん。今日もお仕事のようでしっかり(?)隊服を着ている。挨拶だけしてデパートへ入ろうとすると何故か沖田さんも後ろから着いてきた。あっ、サボりの口実に使われた。



「そもそもプレゼントなんつーモンは気持ちだろ」

「そーなんですけど!わかってるんですけど⋯⋯でも、せっかくなら喜んでほしいじゃないですか⋯⋯」

「なら本人に何が欲しいか聞けばイイじゃねーか」

「だってだって!それだと“気持ちだけで嬉しいよ”って去年⋯⋯」

「⋯⋯カッコつけられてんなぁ」

「笑いごとじゃないです!」


けたけた笑い出した沖田さんからまた顔を背けて紳士小物の前で睨めっこ。財布にするのか、キーケースにするのか、名刺入れか、パスケース⋯⋯そもそもパスケース使うのか?とか考え始めるともう決まらない。時計やバッグ、お酒なんかも候補だけどお酒はなくなっちゃうしなぁ⋯⋯。
ふあぁ、と隣であくびが聞こえた。



「まあ何でも良いんだけどよォ、用事はもう済んでんのか?」

「え?⋯⋯っあぁぁあ!」

「⋯⋯やっぱり。」



そうだ、そうだった!
今日、非番だと思い込んでたけど頼まれ事があったんだ⋯⋯!
冬夏がなかなかもどってこねぇって屯所から連絡あったから、なんてだるそうに言った沖田さんを(忘れていた自分が悪かったけど)恨めしく思いながら大急ぎで駆け出した。
近藤さんには申し訳ないけどとりあえずプレゼントの件は今は保留だ。



---




ざっ、ざっ、と竹箒が地面を擦る音が響く中庭。私はといえば掃除しながら心の中で頭を抱えていた。


(ああああああどうしよう⋯⋯!!)


悩みに悩んでいたら遂に明日は24日。甘かった。いつでも買いにいけるなんて思ってたらなんやかんやで今日まで空きがなく。とはいえ今日も夜までお仕事で買いに行く時間はない。計画性のなさに後悔とため息しかない。
この間目星を付けていたものはさっきのお昼休み、お店に問い合せたら完売でお取り寄せ対応になっていた。人生であんなにまじか⋯⋯を連呼した日はないってくらい落胆しつつ、でもどうしてもそれが良かったので予約しておいた。明後日には他店舗から取り寄せてくれるらしい。


「ああ⋯⋯もう⋯⋯泣きそう」


だってまさか次のお休みは過激派の浪士たちに不穏な動きがあるってことで休みなんてないようなもので、半休の日もまた女中さんたちに捕まるなんて思ってなかったんだもの⋯⋯!!
そんな落胆を抱え、明日を少し憂鬱に思いながら仕事をすすめていれば、気付けば夜になっていた。


「うう⋯⋯もう⋯⋯明日、せっかく楽しみだったのに⋯⋯」


お気に入りの着物と帯、いつか近藤さんに貰った髪飾り、それらを箪笥から丁寧に取り出して明日着られるように枕元に並べた。
一つため息を落として床に就いた。




---





「お疲れ」

「⋯⋯お疲れさま」

「ん?どうした?元気ない?」

「え、あ、ううん!そんなことないよ!」



いけない、せっかく近藤さんがお仕事頑張って今日の午後から明日までのお休みを貰ってくれたんだから。沈んだままだった気持ちを無理やり起こして笑顔を見せた。
そう、もうどうしようもないんだから、楽しまなきゃ!
そう思いなおして、近藤さんの手をとった。




計画してくれていたのであろう、水族館、イルミネーション、ターミナルタワーのレストラン。エスコートしてくれる手が優しくてかっこいい。もちろんどこも楽しくて、ご飯はとっても美味しかった。


「じゃあ、行こうか」

「え、」

「上に部屋、取ってあるから」


いたずらっぽく笑って引かれる手は全然嫌じゃなくて、もうずっとどきどきしっぱなし。似合わないようなクサいセリフも、いつもよりもっとかっこよくみえる。


カチャ、と音を立てて開いた扉の先には天人風のお部屋で見馴れた和室とは全然違うものだった。ふかふかのベッド、大きな窓から見える江戸の夜景、間接照明の柔らかな光がお洒落に部屋を照らしていた。


「冬夏、こっち」


ベッドに腰掛けた近藤さんに呼ばれる。もう、私に拒否権なんてない。拒否するつもりもなかったけれど。
隣に座ると近藤さんに背を向けるように促されたので言われるまま座り直すと後ろから抱きしめられた。
ちゃり、と微かな音がしたと思うと首元に光るもの。驚いて思わず振り返った。


「こ、れ⋯⋯!」

「メリークリスマス、冬夏。気に入って貰えるかスゲェ悩んだんだけど⋯⋯」

「気に入るに決まって⋯⋯!ありがとう」

「いやー、俺センスに自信ないからさァ!喜んで貰えたんなら良かった!」



あ、やば、泣きそう。思った頃には目頭が熱くて我慢出来なくなってた。慌てて近藤さんの胸に頭を寄せて顔を隠した。どうしよう、情けない。嬉しいばっかりだ。貰ってばっかりだ。嬉しいのと用意が出来なかった馬鹿さに泣けてきた。



「えっえっ冬夏ちゃん!?何で泣いちゃうの??」

「⋯⋯ごめん、なさい」

「え?」

「貰って、ばっかり、嬉しい⋯⋯ばっかりで、」

「えええ?俺がそうしたいから⋯⋯」

「じゃ、なくて⋯⋯!」



ぼろぼろ泣きながらプレゼントが間に合わなかったこと、取り寄せで明後日まで手元にすらないことをたどたどしく伝えると、近藤さんはキョトンとした後あっけらかんと豪快に笑い始めた。


「なぁんだ、そんなことか!」

「だ、だって⋯⋯っ!」

「プレゼントなんか別にあってもなくてもどっちでも構わねぇんだ。いや、そりゃ貰ったら嬉しいけどな?でも、冬夏がこうして一緒に居てくれただけで、俺は本当に満足だし幸せんだって」

「でも、でもぉ⋯⋯!」

「もう泣かない!嬉しくて泣いてくれるのは嬉しいけど後悔して泣くのはもうなし!」

「⋯⋯っ、はい」

「よし!」


ニカッと太陽みたいに笑って背中を撫でてくれる。スンッと一回鼻を鳴らして涙を拭った。よしよし、なんて優しい顔で許してくれるから私もへにゃりと下手な笑顔を返しておいた。



「それにな⋯⋯今日は。」


急に声が低くて、目が獲物を狙う獣に変わった。耳元で囁かれた言葉に私は明日の自分の心配をする羽目になったと思った頃には視界は天井と近藤さんしか映っていなかった。





もうプレゼントはいらねぇよ
(冬夏だけで充分)
(でも後日ちゃんとプレゼント渡しました)



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