銀魂&春夏秋冬

□不器用な手作り弁当を携えて
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新幹線に乗り込んだ私たちは手荷物を棚の上に上げて、というか私の場合は上げてもらい席に座る。
新幹線に乗るなんていつぶりだろうか。
年甲斐も無く遠足にはしゃぐ子供のようなときめきを自覚して少しだけ苦笑した。


「冬夏、冬夏!!」


前の座席の背もたれの上からひょっこり頭を出して私の名前を呼ぶ可愛い声。


「神楽ちゃんどうしたんですか?」

「アネゴと一緒に温泉行くアル!」

「冬夏ちゃんいつもむさ苦しいのに囲まれてるでしょう?」


にっこり、綺麗な笑顔の彼女は通路側の座席に座っていたようで体を通路に乗り出す形でこちらを見ていた。
初対面の筈なのにすごくフレンドリーに話しかけてくれることが嬉しくて、つられて笑顔で頷いた。


「いっぱい、ガールズトークしましょうね」

「冬夏ちゃん、敬語とか辞めましょうよ」

「そうネ!距離感、感じるアル」

「神楽ちゃんそれは頭痛が痛いって言ってるみたいよ」

「…はッ!確かに…!さすがアネゴアル!」


二人のコントみたいなおしゃべりが面白くて思わず笑ってしまう。
旅行の楽しみがまた1つ増えたことが嬉しかった。


「じゃあ約束アル!忘れないでヨ!」

「うん、ありがとう」


神楽ちゃんとお妙さんはまたきちんと座り直したみたいで二人の顔が引っ込んでしまった。


「良かったなあ、冬夏」

「うん、ふたりを呼んでくれてありがとう近藤さん」


そこから持参したガイドブックを開いて京都で観るべき50選!なんて特集を二人で見ながら過ごしていた。
けれど新幹線のためにいつもより早起きしたことや昨夜楽しみでなかなか寝付けなかったことのツケが今になって回ってきた。
だんだんと眠気が私を襲う。
起きていようと目を擦れば私の様子に気付いた近藤さんがくい、と私の頭を自分に引き寄せた。


「ねむたいだろ?いいぞ、寝てて」

「ん…ごめ、ありがと…」


素直に甘えて肩を借りる。
実は眠気が限界に来ていたのですぐに意識が飛んでしまっていた。



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「……っか、マジどんなメスゴリラかと思えば……とか!ふざけんなてめぇ!」

「ちょ、起きちゃうから声抑えろって銀時!」


ふと意識だけが浮上した。
誰か近藤さんと話してる…ような気がする。
夢と現実の狭間をゆらゆらしているのでこれが現実なのか夢なのかはっきりしない。
まだ7割くらい寝たままの私は目も開けられないので夢かどうか確かめる力さえなかった。



「…メスゴリラとか…どちらかというとウサギちゃんだろこれ」

「確かに…」

「つーかゴリラお前、お妙はどうしたんだよ」


…おたえ、おたえ…えっ、お妙さん?
今日できた友だちの名前が出てきてほんの少しばかり覚醒する。
もたれていた近藤さんの肩がびくりと動揺を示したみたいだ。



「メスゴリラっぽさなら断然アイツだろ。ずーっと尻追っかけ回してたクセによォ…」

「…そ、れは…」


近藤さんが口を開きかけたところで睡魔がまた押し寄せた。
彼の声が遠くなって意識が沈む。
気づけばまた深い眠りの中に落ちていた。



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ゆさゆさと控えめに揺すられて目を覚ます。
ゆらりと目を開ければ近藤さんの笑顔が近くにあった。


「起きたか、そろそろ京都だぞ!」

「…きょうと」


寝ぼけまなこで復唱した私を見てくす、と笑った彼は荷物を棚から下ろして私の手を引いて外に出た。
なんだかもやもやする夢を見ていた気がする。
近藤さんが、どうとか…。
なんとなく思い出したくなくてふるる、かぶりを振って思考の奥に追いやった。

ぞろぞろと大所帯で移動する。
目的地はもみじの綺麗な大きな公園でちょっと遅めのお昼ご飯はそこで女中さんたちが作ってくれたお弁当だ。
もちろんお弁当箱は持って帰る手間を考えて使い捨てられるやつ。
お女中さんたちは用意周到である。


「げ、姉上もお弁当作ってクダサッタンデスカ」

「あら新ちゃん嬉しすぎて途中からカタコトになってるわよ?」

「ンなもん誰が食うんだよ!」


ぎゃあぎゃあ言いながら万事屋メンバーがこちらへ離脱してきた頃、近藤さんはにこにこしながらお妙さんのお弁当を口に運んでいた。


「いやあ、お妙さんの弁当は個性的な味ですなァ!」


そう言いながら最後の一口を咀嚼してばたりと倒れてしまった。





不器用な手作り弁当を携えて
(電車の中で見た夢がよみがえる)
(私よりお妙さんの方が、すきなのかな)
(私もお弁当、近藤さんのために作ってきたのに)



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