適当二次小説
□第十八節
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第三百三十五『土台』
どこかも分からぬ闇の中。
辺りは木々が密集するように生え、到底人が立ち歩くようには出来ていなかった。
そんな中を、一人分の足音をバキバキとたてながら、二つの人影が道なき荒道を無理矢理進む。
「薄ッ気味わりいっすし怖えんすけどココ」
緑色のつなぎを着た男、デジは辺りをキョロキョロと見回しながら呟いた。
手に持つ懐中電灯の灯りが若干震えているように思えるのは、きっと気のせいでは無いのだろう。
「いいから見てろってよ。拠点的な? そんなもんだからよ」
短い髪を逆立てた男、流厳は軽く笑うと地面に手をついた。
地面はわずかに湿っているようで、流厳がついた手のひらに黒い土が粘りつく。
だが流厳は構わず地面に向けて力を込めた。
するとどういうことか、徐々に流厳の腕が地面へと埋まって行くではないか。それにただ埋まって行くだけではない、流厳の腕も徐々に土色へと変色してしまっていたのだ。
「うっへえ、不思議現象の原理だけでも教えてくれりゃあ似たようなの作れんのに…」
デジは身体に異変を起こしつつある流厳の姿を見て苦笑する。
どうやら理解の範疇を超える事態を前にしては、デジは心底から苦心するようだった。
今まで培ってきた常識を覆す事を続けざまに目の当たりにしてきたのもあるのだろうが、それを理解したくても出来ない自分に悔しさを覚えているのかもしれない。
流厳は軽く息を吐くと、一気に地面に潜り込んだ。
水に落ちるように滑り落ちる様は、今立っている大地が本当に大地なのかと錯覚させる程。
デジは何度か足踏みをして、地が地であると確認した。
「こっからあ! 劇場、始まりってか!」
デジの真下から声が響いてくる。
陽気な雰囲気で響く流厳の声だ、一聞きでは遊んでいるようにしか聞こえないが、成そうとしている事は大層なモノだった。
「うおー…、わけわからんッスね。人がする事じゃねえッスって」
デジの目の前では、またも科学的に証明するには難しい事態が巻き起こっていた。
流厳が潜りこんだ地点。そこから地面が急激に突き上げられたように盛り上がり、みるみるうちに大きな大きなドーム状の山へと変貌し始めていたのだ。
デジは盛り上がって行く地面を見上げる。周辺に生えていた木々が、それに合わせて天へと昇って行っていた。
地響きが湿った空気に浸透し、振動と共に周囲一帯を揺らしていく。
「すぐ下に隔膜でも作って持ちあげて…? いや地殻エネルギーを利用して…?」
もごもごとデジが呟いているが、実際のところ流厳がそんな小難しい事を考えて行っている訳が無い。
デジの思うところなど、流厳にはあまり通用するものではないのだ。
「とにかく何するつもりなんすかねこりゃあ…」
地面の膨張は既にデジの足もとに及び、は再度見上げ、伸びきった茶色くボサボサの頭をかいた。
しばらくお手入れもしていないのか、傷んだ髪は指に絡まって悲鳴を上げている。
するとそれに応え、今度は膨れ上がる山の奥から、地響きに混じって流厳の声が響いてきた。
「でっけえ花火上げるっつっただろ? 砲台の準備みたいなもんよ」
「へえ…。まっ、派手で楽しそうってのだけ分かったッス」
デジはそういうと、地を揺らしてせり上がり続ける地面に腰を下ろした。
懐から取り出すのは、一本の細く小さく白い筒。デジはそれに、更に小さい筒を先に取り付け、口にくわえた。
「んだそりゃ?」
「電子煙草って奴ッスよ、モノホンが無くなりそうだったんで緊急用ッス」
どこからともなく響いてくる声に対し、デジは加えていた電子煙草を指で振ってみせる。
「俺はそっちのが訳分かんねえなあ、何が美味えのやら」
流厳の思う事がどうあれ、更に山は膨張を続けていた。
決して届かぬ空へ、無限の意欲で必死に成りあがろうとする山は、デジには随分と滑稽に思えていた。
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