適当二次小説

□第十八節
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第三百三十四『委任』







「今もぼうっとして……、境界操作に集中出来ないの。…眠、くて」

 紫は普段の様子とは異なって、たどたどしく言葉を紡いでいく。
 凛々しさは何処にもなく、思い瞼と限界寸前まで格闘しているようだった。
 呂律がまともに回らぬ子供の如く、紫はまた口を開く。

「力の影響が、弱まってる…」

 紫はゆっくりと、虚ろな視線を藍へと向ける。
 藍は落ち着いているようには見せていたが、紫の言葉を聞き逃すまいと半ば必死に集中して聴いているのは明らかだった。
 そんな藍を見て、紫はフッと笑みをこぼす。

「もう少し…したら、起きるから…」

「私はどうすれば…?」 

 言葉を紡ぎ終わり、紫が口を閉じた事を確認するや否や、藍は即座に請うように問うた。

 藍には迷いがあったのだ。ここ一週間足らずで度重なる出来事があり、詳しい内容も分からぬままあらゆる事が過ぎ去っているのだ。自分が長考している内に、である。
 その上、今の藍は劣等感に塗れそうになっていた。紫が境界操作されているのに気付けなかった事が、情けなく思えていたのだ。
 紫の力を借りられないと改めて分かり、藍の表情は若干不安に駆られ始めていた。

 そんな藍を前に、紫は変わらない優しい笑みを浮かべる。
 自分の娘を見守るような、優しい笑顔だった。

「妖が成すば人により…、人が成すば、妖か、人か…」

「は、はい?」

 突然訳のわからない事を並べたてられ、藍は困惑する。
 紫は構わず、というより構う余裕も無かったのだろうが続けた。

「優秀な貴女を式にしているのは、どうして…?」

 どうして、と言われてもと、藍は言葉に出来ず黙ってしまっていた。
 今更そんなことを言われても、紫の真意を測るなど到底出来そうにもない。
 また要らぬ考えが頭に浮かんできてしまい、藍は払拭しようと脳を回すがそう簡単にもいかず、また痛くなりそうな頭をどうにかしようと。


「信ずるままに……、動いて…」

 気付けば悩み続ける藍の手を、紫はそっと握りしめていた。 
 柔らかく温かい手。何故かこうして触れられているだけで、藍は芯から心が落ち着いていく気がしていた。

「…はい!」

 ようやく訪れた安らかな心持ち。久方ぶりの晴れやかな顔で、藍は頷いた。
 紫は既に眠気に身を任せているようだ。
 藍の様子に満足したのか、なんとも安らかな寝顔であった。




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