鬱憤晴らし
□ある時間
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しんしんと降りつもる雪、
とある冬の、とある紅い館の、とある庭園
綺麗に整えられた花壇をしきる、規則正しく並べられレンガの上に腰かけ佇むメイドが居た
その銀色の髪は、時間がたつごとに形成されていく銀幕の世界に溶け込んでいきそうで
雪にしたたる滴
その流れをたどっていけば、メイドの目から頬を流れて…
首にふんわりと巻かれたマフラーを無視するように、滴はただ雪の上へと落ちた
メイドの肩に少しばかり積もった雪も、次々とくる新しい結晶と重なり地面へと落ちる
静かな情景、雪は音を吸収するというが、降り積もればなおさら
そんな時、やけに響く足音が近づいてくる
「隣、いいですか?」
帽子の飾りに『龍』の文字、
赤い髪をなびかせて傍に立った者が言う
メイドの反応は無く、ただ認識はしているのか頬に残った滴を袖で軽くぬぐった
龍の者は気にするそぶりも見せず、何も言わずに隣のレンガへゆっくりと腰をかけた
ちらりとメイドの眼が隣に座った者へ向く
やはり龍の者は気にせずに、ただ自分の前に積もる雪を眺めていた
「……何よ…」
静かに、か細くメイドが声を出す
マフラーに顔をうずめ、俯き加減にメイドもまた目の前の雪に目を向けた
声を受け、龍の者がズボンのポケットを探る
「温かい飲み物でもどうかと思って」
取り出されたのは二つの缶、一つはこのメイドのために持ってきた物、もう一つは自分用であろう
すっ、とメイドの前に缶が差し出される
差し出されたそれを、メイドは無愛想に睨みつけていたが
やがて観念したようにゆっくりと缶を手にとった
差し出した物が受け取られたとわかると、龍の者は少し微笑んで自分の缶を、カコッ、と、特有の音をたてて開いた
開かれた飲み口から湯気がやんわりと揺らぐ
「冷え込みますね」
一言いい、龍の者はズズ…と一口飲み物を口に入れる
飲みきった後に出た息は限りなく白く昇って消えた
黙っていたメイドも渡された缶を開け、また口に運ぶ
その温かさが、抑えに抑えていた感情を呼び起こしてしまったのか、予期せぬ涙が頬を伝う
「…っ!」
焦り、メイドがマフラーに顔を沈めて隠す
明らかに不自然な動作ではあったが、龍の者の視線は前に向いたまま動かさず、ただ微笑む
「大丈夫ですよ」
そして、聞こえるように言う
「私しかいません」
そう言って、今度はメイドへ顔を向けてほほ笑みを見せた
屈託のない笑み、それは、情をあふれさせるには十分なもので
メイドの額が、ポスッ、と龍の者の肩に乗る
静かに、そしてこの空間の中にだけ、はっきりと嗚咽が響く
「グス……ヒック…」
滴り落ちる涙
龍の者の肩を少しづつ濡らす
龍の者はゆっくりと、メイドの背中と肩に手をまわした
半ば抱きしめるように、俯くメイドの頭の上に龍の者が包み込むようにまた額を乗せた
「…辛い時は我慢なんかしないで下さい、見てる方が辛いんですから…」
「ん…」
降り積もる雪は二人の世界を作り、美しくかたどっていく
「……もう少し…」
メイドが甘えるようにつぶやく
「気が済むまで…」
ただ、時間だけが過ぎて行く
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