適当二次小説

□第三節
1ページ/12ページ

第二十五 『仮の顔』










紫は四人を送りとどけた後、自分の居城、マヨヒガに戻ってきていた


「ん〜」

軽く伸びをする、全身の筋肉の緊張がほぐれていくようで、紫は一時の気持ちよさを携えて息をはいた


「久々に働いたわ〜、それにしても…」


言葉をそこで切る紫、帰ってきたばかりで一人しか居ない和室
当然ながら、静寂が流れる


「あ、お帰りになられたんですか。」


襖戸が音もなくスムーズにスラリとあき、チラリと顔を覗かせる者が居た


紫の式であり、それ相応の実力と知力を兼ね備え、フワリとした尻尾を九つ持った狐の妖怪、八雲 藍である


「どちらへ行かれてたのですか? 珍しい」

「ちょっと面倒事を片付けにね、疲れたし少し寝るわ」

「今すぐ敷きますから、お待ちください」


そういうと、藍は慣れた様子でささっと押入れまで移動していた
押入れから布団を手際よく取り出し、丁寧に敷いていく


突然の睡眠要請も珍しいことではないのだろう
紫自身の外出が珍しいというのはもしかしたらそういうことかもしれない


活動より睡眠の方が多いと


「さ、どうぞ」

「ありがと」


即座とは思えないほど丁寧に敷かれた布団を前に、紫は感謝を述べてすぐさま布団にもぐりこんだ


潜った後に帽子は外し、枕元に置く

それよりも、寝にくそうな服装をどうにかした方がいいような気がするが、軽く流しておこう




「ねえ藍」

「なんですか紫様?」

「私はこれから眠るけど…、何かあったらお願いね」

「…? 何をですか?」


藍が首を傾げる


「この二日の間に、二人の人間が一気にここに迷いこんできた。 私は何もしてないわ、それにまだ存在がはっきりと掴めない何か」

「紫様も把握できない何か、ですか」

「ええ、近くにスキマを開くと消えちゃうの、スーっと」

「消える…? 幽霊か何かですか?」

「もっと違う別の何か、幽霊だったらわかるもの」

「そうですね、…調査しておきましょうか?」

「止めときなさい、私がわからないんだから」


紫は布団から手だけをだし、横に数回振った




「しかし…、」

「いいのいいの、いざとなったら巫女とかが何とかしてくれるわ、多分ね。 それじゃおやすみ…」

ラン「大丈夫だろうか…」


藍の心配を他所に早くも寝息をたて始める紫、本当に早い








○び太君並といってもいい

それがのび○君よりも頭がいいもんだからたまったもんじゃない、ぐうたらしても賢いとはどういう了見であろうか


藍はハア、とため息を付き部屋を出た


「二人の人間に正体が分からぬ何か、か…」


歩きながら呟く


(とにかく気にかけるべきは紫様でも掴めない何かだな。 人間の方はよっぽどでない限り大丈夫だろう)




藍はそこまで深くは考えなかった。
人間ならばよほど強くなければ脅威ではないと考えたのだ



思考を取りやめ廊下を歩く


その時、後ろから

「らんさまー」


と、二人からしたらかなり幼めの声が


「ん? どうした橙」


橙と呼ばれた少女は緑色の帽子をかぶり、二つの猫の尻尾をつけている。

いわゆるネコマタ、というやつだ




「お客様がきてますー、変な人ですけど」

「変な人?」

「はい、変な仮面をつけて…」


藍は紫が言っていた二人の人間、という言葉を思い出した


(迷い迷ってここに辿り着いたのか?)



マヨヒガはその名の通り、道に迷ったものが行き着く場所でもある、


更にあの幻想郷最強の妖怪と謳われる紫がいる。




常人や普通の妖怪が来ようと思って来る場所ではないのだ





「わかった、客間に通してくれ」


藍はとりあえず会う事にした。

会ってみなければなにもわからないと思ったのだ




橙に連れてきてもらう前にひと足先に客間へと向かった


















数分遅れて橙が訪問者を連れて来た


…なるほど確かに変な仮面を付けている。





憤りと不安が入り交じったような微妙な表情の仮面、

鉄で出来ているようだ



何を表したものなのだろうか?






思わず仮面を凝視してしまっていた事に気付き、慌てて視線を戻す


「どうぞそちらに座ってください」


手で位置を指し促す


「…」


鉄仮面の…恐らく男は無言で指し示された場所に座る


「この人、喋れないようなんです」


と言葉を入れる


鉄仮面の男がそれに合わせ、紙の束とペンを取り出す


(なるほど筆談か)


カリカリ…と男が紙にスラスラと字を書いていく



『突然の訪問 申し訳ない いつのまにかこの地にたどり着いた』


やはり迷い人か
そう確信した藍は、念頭に置いて話を進める


「あなたはこの世界が何なのかご存知ですか?」

カリカリ…
『わからない 昨日、森をさまよっている内に気付いたらここに』


藍は紫から聞いたばかりの話を思い返す

この二日のうちに入り込んできた人間が二人、恐らく、口ぶりと雰囲気からして適合者だと考えた


「ここは幻想郷という所です」

『幻想郷とは?』

「詳しく説明しましょう。」



そうして藍は鉄仮面の男に、この世界の事について、簡単に説明を始めた




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ