ザンスク
□fairy tale?
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「…すげぇ…メルヘンだなぁ…」
「…あぁ…メルヘンだ…」
呆然と呟くスクアーロとザンザスの視線の先には、御伽噺でしか見たことの無いような家。
甘く香ばしい香りを漂わせるその家は、全ての子供を虜に出来そうに思える。
大人であるスクアーロでさえ意識を奪われてしまいそうな程魅惑的なその家は、かの有名な「お菓子の家」だった。
何故こんな所に、いや、そもそもどうして自分達がこんな森の中に来たのか、どうやってここまで辿り着いたのか、その経緯すら危うい。もしかしたらもう既に魔女の魔法に掛かってしまっているのかもしれない。
思考までメルヘンになってしまっている事に気付かないまま、スクアーロは家へと歩み始めたザンザスの背中を追い掛けた。
「う゛おぉ…!すげぇ、すげぇっ!」
ビスケットの扉を開けた瞬間視界に飛び込んできた光景に、スクアーロは思わず感嘆の声を上げる。
わたがしのソファに飴細工の照明、マカロンの受話器、バウムクーヘンは柱となって家を支えている。外にはチョコレートの噴水までもが。
身体の底から沸き上がる興奮を抑えようともせずに、スクアーロは恐らくクッションであろう大きなシュークリームに抱き付いた。
ふわっとした感覚と香りに、スクアーロはふにゃりと笑みを零す。
「すげぇ…夢みたいだぁ…」
シューからはみ出たカスタードをペロリと舐める。しつこくない甘さがスクアーロを幸せの絶頂まで導いた。
「…うめぇ!こいつらすげぇうめぇぞぉ!」
手元にあったショートケーキを掴んで口に含みながら、サブレのテーブルをがりっと噛る。
口内に広がる甘い味覚にもう一生ここにいてもいい、なんて事を思いながら、スクアーロは先程から全くお菓子に手を付けていないザンザスの元へと走り寄った。
「う゛おぉい!お前も食えよぉザンザス!甘いもん嫌いじゃねーだ、ろ…、」
お菓子を腕いっぱいに抱えながらザンザスの顔を覗き込んだ途端、スクアーロは全身石になってしまったかのように、ピタッと動きを止めた。いや、動けなくなった、と言った方が良いのだろうか。同時に頬を伝った冷や汗にスクアーロは思わずごくりと喉を鳴らした。
何がスクアーロをそこまでさせるのか、と聞かれれば原因は勿論ザンザスにあるわけだが。
───笑ってる、のだ。ザンザスが。壁に塗られた生クリームを指で掬いながら。
ただ笑ってるだけなら良い。だが顔面に張り付いている笑みは、決してお菓子にはしゃいだ子供の様な物ではなく。言ってみれば情事中に時折見せるような意地の悪い笑みで、
「………はっ!?」
まさかまさかまさか!
途端に背筋をぞくりと走った悪寒に顔をサッと青ざめさせる。
一瞬頭を過ぎった身の毛も弥立つ想像は、どうか想像だけで終わって欲しい。
相変わらず嫌な笑みを貼りつけながらゆっくりとこちらに視線を向けるザンザスに、スクアーロはぶるぶると震えながらザンザスが最初に発する言葉を待ち構えた。
勿論、祈る事を忘れずに。
「……スクアーロ…」
「は…ははははいぃ…」
「ここは…まるで楽園だな。てめぇは甘味を十分に楽しむ事が出来るし、俺は夜をより一層楽しむ事が出来る。これだけ世界中の菓子が集結してるんだ、出来ねぇもんなんて何もねぇだろ。王道ではあるが、生クリームプレイは必須だろ…あぁ、練乳を使うという手もあるな。飴玉を使って産卵プレイも出来る…勿論、使うのは大玉かどんぐり飴に限るがな。尿道にポ○キーぶっ刺しても楽しそうだ…、ふ、ふはは…さぁ選べスクアーロ。まずは何からされてみてぇ?因みに逃げ道はねぇからな。さぁ、さぁさぁ!」
「っひ…!」
「う゛あぁぁぁぁぁああああっ!!…はっ!?夢っ!?」
ガバッと起き上がって最初に見た物は、何時もと変わらない、白いシーツに半開きのクローゼット。
冷や汗をだくだくと流したまま目だけをきょろきょろさせて、夢から覚めた事を確認すると、スクアーロは漸くホッと息をついた。
(良かった…本当に良かったぁ…マジで怖かったぜぇ…)
が、しかし。突如香ってきた甘い香りに、折角拭った額からは再び汗が滲み出る事になる。
「…随分魘されていたな、」
大丈夫か?と何時の間にやら部屋に入ってきていたザンザスの腕には、恐らく自作であろうお菓子の山。そしてその表情は、決して人を心配しているような物ではなく。
にやにやと厭らしい笑みを浮かべながら近付いてくるザンザスにデジャヴを感じ、スクアーロは酷い眩暈に襲われた。
(これもどうせ夢なんだろぉ?)
(つーか夢であってくれぇえ!!)
end
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