終焉の鎮魂歌<レクイエム>

□第一楽章
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清々しいとは言いがたい朝。
今日は生憎の悪天候らしい。
今日の天気を告げるアナウンスが廊下をはびこっていた。
ここは黒の教団総本部。
敵の侵入を防ぐ為なのか、はたまた違う理由なのかは知らないが、無駄に高いところに造られ、その標高は雲を目下に見る程だった。
敵の侵入を防ぐためなのならば、並大抵の人間が入ることが出来るはずもなく、万が一侵入出来たとしても、訓練を積んでいない者が歩くだけで息の切れるような高さの場所を自由に動ける訳がない。
まあ、その他諸々の事情により、食料や衣服の買い出し等は教団のサポーターがこなしているのだった。

そんな過酷な場所で生活する一人の少年…
それもただの少年ではなく、体内にイノセンスを宿したエクソシストであるアレン・ウォーカーがベッドから上半身を起こした。

「(相変わらずアナウンスうるさいな…しかも、下は雨…まあ、任務無いからいいけど…)」

頭の中で愚痴を言いながら、アレンはゆっくり体を起こした。
片手で白い髪を梳きながら、着ていたシャツを脱ぎ捨てる。
着替えになる上下がかけてあるハンガーを片手に、アレンは洗面台の前に立った。

鏡に映る白い髪と、赤い傷。
鍛え抜かれた身体は、年齢にそぐわず、しっかりしていて。だが、それでも食べていないのではないかと思えるほど細く、抱き締めたら音を立てて折れてしまうのではないかと思えるほどの哀愁を漂わせていた。
そして、極めつけは、その白い肌に浮かび、繋がる、黒い左腕。
シルエットだけは一般人と全く変わらないそれ。
だが、手のひらに深く埋め込まれた十字架が、彼がイノセンス、そして、AKUMAに魅入られていることをリアルに映し出していた。

鏡に映ったもの全てが、彼がただの少年ではないことを表す。
隔離されたように感じる"セカイ"。
それが彼を苦しめ、蝕んでいたなどということなど知らず、のうのうとその身体に巣食うのを、何度忌々しく思ったことか。
だが、それは、大切な義父との約束の証。

「今となっては、誇りに思ってるよ。マナ…」

鏡に映った自分の額にある星の形をしたペンタクル。
一つ二つと、自分と世界を隔離する物が増えていっているのが分かる。
だが…

例え、世界から完全に隔
離されようとも、歩み続ける事を誓ったから………

鏡の中の自分に小さく笑いかけ、アレンは歯ブラシを手に取った。
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