長編小説集

□振り返れば、あの日と同じ坂道
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「ここが…チャオガーデン…」
「そうでございます。坊ちゃま」

その日、俺は初めて、あいつに出会った。




『振り返れば、あの日と同じ坂道』



彼の名前は、伊藤啓作。中学3年生。特技は、ピアノ。

一見すれば、どこにでもいるごく普通の中学生だが…



何なんだ。俺のいる世界、俺の周りの環境、状態は。
だれもかれも、毎日毎日、つまらない話しをして、つまらない一連の動作。そんな毎日の繰り返し。

学校に行けば、少しは気も晴れるが。
俺だって、友達がいない訳ではない。
だけど、最近になってそいつらにも、うんざりする。
友達−今の俺に、彼等にこんな感情を抱いている俺には、そう呼ぶ資格はないのかもしれないが−の誰もが、受験を迎えている。

やれ、順位だの、やれ、偏差値だの、と。

どうして、そんなに心配するんだ?

そんなことを、もう、何回彼等に聞いただろう。

だが、そんなことを言うと
「当たり前だろ?お前は、バカか?」

毎回の彼等のそんな返答に、うんざりしていた。



家に帰っても、うんざりする日々。



「ただいま…」

少し遅れて返事が返る。
「お帰りなさいませ。坊ちゃま」

更に遅れて、数々の返事。「お帰りなさいませ」「お疲れ様でございます」「お帰りなさいませ」……

いつもの光景。

当然俺も、いつものように
「ただいま」

さっきも言ったのに、つい、もう一度言ってしまう。
「坊ちゃま。今日は、6時から、ピアノのお稽古。9時から、学習塾ですので、お忘れなく」

一番最初に返答した男。田中が、いつものように予定を読み上げる。

「うん。分かってる」

俺も、いつものように返事をする。





メイド達が、俺の鞄を、上着をいつものように片付ける。


今日もまだ、長い一日は、終わりそうにない。


ーーー続
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