格闘王者

□鑑賞後
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彼女がまたDVDを借りてきた。

「……確かにね。うん、君の好きそうな話だよね以前のアレといいちょっと前のソレといい」

苦笑する僕を見ることもなく、彼女はまた見ながらべそべそと泣いていた。
今回はDVDの巻数も少なく、休憩を挟みながらなんとか夜には見終わることができた。
今回のは前のに比べるととても救われない。最後の最後での種明かしは、彼女は全く気付いていなかった様子で。ツルハシを振り上げるシーンにまでなると、彼女は涙を流しながらガタガタと震えていた。

「嘔吐シーンが多いのはちょっとキツいけど、この終わりかたは嫌いじゃないね」
「どうしてアッシュ泣いてないの!?」
「……泣く作品なの?ミステリ作品なんだからお涙頂戴じゃないと思うけど」
「泣くよ!だって〇〇が××で、あの子が△△で死んで☆☆が実は**に◎◎と」
「はいはい涙拭く。前もおんなじことやってるんだから、いい加減慣れたら?」
「違う作品なんだから慣れるわけないでしょ!?」

かいつまめば『いないはずの死者』と『そのクラスで起こる現象』の話だ。死亡シーンも嘔吐シーンも自然災害も人災も血飛沫もてんこ盛り。

「じゃあ慣れないついでに質問しようかな」
「?」
「あの話みたいに、ボクが『死者』だったら。……どうする?」

彼女が固まる。あの話を見ていれば、正しい答えはたった1つだと解る筈だ。
案の定彼女は息を詰まらせ何か言いたげな唇を半開きにして、見開いた瞳に涙を一杯に溜めていた。

「…………………アッシュ、」
「なに?」
「どうしてなんでそんないじわるなことばっかりどうしてなんでほんとうにいつも」
「あーはいはい涙零れてる零れてる」

馬鹿で単純な彼女で遊ぶことが趣味になっていた。それは、こんな関係になる前から。
頭を撫でると俯いて鼻を啜る。泣きじゃくらないのは成長の証か。

「お風呂入っておいでよ。いつも泣き疲れて寝るんだからさ」
「………ん」
「だから、こんな所で寝ない。……襲うよ?」

そんなやり取りも、DVDの内容によってはいつもの事で。
ふらふらと浴室に向かう彼女の背を手を振って見送った。

「………。」

積まれた視聴済みのDVDを見た。見終わってしまえば、全く興味がない。
でも相変わらず、円盤に泣かされる彼女は馬鹿で面白かった。
電源の切れた液晶は最早光を灯さず、ぼんやりとした自分の姿をくすんだ鏡のように映し出す。

「ミネルバー」

見た映像の余韻に浸るのは、悪くない。

「石鹸で転んだりしないようにねー。あの作品だったら死ぬよー」

浴室に掛けた声と同時に、何か軽いものが吹っ飛ぶような大きな音がする。動揺した彼女がまた何か足に引っかけたのだろう。

「アーッシュ!ゴルァ!!!」

時間的にも近所迷惑な絶叫が響く。
眠気が飛んだようでなによりだ、と肩を揺らした。







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