黄龍之器

□白蛇抄 陰→陽
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「――――信じられるか?」

蓬莱寺さんにそう聞かれた時は、意味が分からなかった。

ただ視界に稲光がヤケに白く残って、ただ呆然と目の前の相手を見ているだけ。

『何が?』

問い返しても許されるだろうか。

目の前の存在は心に爪を立て引き裂こうとしてる。それは本人には本意でない事だろうけれど。

「――――いたい」

胸の傷が熱をもつ。

この傷は―――そうだ、不思議な夢を見たあの日にいつの間にか付いていた。

普段なら気にも留めないこの傷が、痛み出すのは決まって雷を見た時。嫌な思い出なんて無い筈だったのに。

「……ちょっと…、ねぇ、ひーちゃん?」

「――――み」

唇が震えた。

これはなんだろう?息が出来ない。特別な恐怖なんて無い、ただ吐き気がする。

唇が震えて象る名前を私は知ってる。声にならない言葉は息だけになって吐き出された。

「………みかづち、さん…?」

「――――」

熱く疼く傷が湿るのが分かった。

胸を彩る『真紅』、それが胸から染み出て流れる。

「……貴女は?」

「―――」



問い返された言葉に動揺が感じ取れた。…無理もない

『敵』

あなたとわたしは。



「御神槌さん」



ああ、そうか



貴方はこんな瞳をしていたのね。

私が知らない、貴方―――





戦場で出会った貴方は



敵でした








 

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