黄龍之器

□ともだち
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鬼道衆に、新たな仲間が入った。

彼はいつも黄龍の器である少女と共にいる。微笑ましく仲が良いその姿は、見るものに癒しを与える。

白くしなやかな肉体、理知的な瞳。


彼女はその姿に名前をつけた。

『みかづち』と。


彼は猫だった。
















「やれやれ、最近退屈そうだね御神槌」

空き時間を見て礼拝堂へ訪れる、妖艶な三味線弾き桔梗。
長椅子に腰を下ろし、簡素な祭壇近くに立っているのはこの場所の主である御神槌。

「あの子もあの猫にご執心だからねぇ。何も猫にアンタの名前つけなくても、とは思うけど」
「……………。」
「どう?猫に恋人盗られた気分は――――」
「御神槌さんっ!!」


礼拝堂の扉が勢い良く開く。


「御神槌さんっ、みかづち見てません!?」
「いえ。」
「今日の朝から姿見えないんですよー…どこ行っちゃったのかなぁ」
「………。」

入って来たその姿は噂の君。
慌てているらしく手振りをつけて説明するが、視線は忙しくあちこちを見ていた。

「ごめんなさい…御神槌さん。みかづちは御神槌さんが私にくれた猫なのに……。」
「おや?なんだい、あの猫は御神槌からの贈り猫かい?」
「そうなんですよ…。あぁ、大丈夫かなみかづち。障気にやられてないと良いけど」
「…あの子に限ってそれはないと思いますよ。」

聖書をパラパラと捲りながら、御神槌が微笑んだ。

「あの子には、よく言い含めてありますから。」

次に御神槌が浮かべた笑みは、黒さが見え隠れするもので。
それに気付かない黄龍の器は情けない顔で取り敢えず頷き、黒いものに気付いた桔梗は座ったまま後ずさった。

―――そして



「痛ぇーっ!!!」


聞こえた大絶叫は恐らく火邑のもの。黄龍の器は扉の方に振り返った。

「っざけんじゃねーぞこの馬鹿猫が!!」

「…猫…。きっとみかづちだ!!すいません二人とも!行って来ます!!」

お辞儀をするなり一目散に外に駆け出す少女を、二人は手を振って見送った。

「…御神槌。」
「はい?」
「あんた、猫に何したんだい」
「いえ」

笑う御神槌には、やはり堕天のような空気が良く似合う。
御神槌の笑みを見ながら思った桔梗のその思考はあながち間違いではなかった。

「みかづちと私は一蓮托生なんですよ」
「…。」
「あの人に近寄る男は、お互い以外は敵と見なす。」
「…………………。」

桔梗は漸く今になって、御神槌がみかづちを、猫を贈った理由が分かった。

「鼠取りかい」
「簡単に言えばそうなってしまいますね」


麗らかな青空の鬼哭村。

響くのは少女の、火邑が猫に対する態度への怒声。そして続く秘拳級奥義。



これでも鬼哭村は平和です。



 

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