黄龍之器

□感傷
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今日、村には沢山の赤トンボが飛んでいる。

夕暮れに染まる盆前の村、子供達はトンボを追いながら走り回り、遊んでいた。

「トンボは」

その光景を二人並んで見ていた。
不意に言葉を口にする相手、御神槌に顔を向けた。

「死者の魂をお盆に合わせて運んできてくれるらしいです」

御神槌の黒が赤に照らされた。
御神槌のすぐ隣りをトンボが飛ぶ。それを目で追い、空を見る。

「私が死んだら」

御神槌の手が、自分の手に伸びて来る。
握られたそれを握り返し、相手を見ると微笑んでいる顔が視界に入った。

「必ず帰ってきますからね。」
「………御神槌さん」
「だから」

繋ぐ手から感じる温かさ。
それは確かに永遠じゃないかもしれないけれど。

「…その時は…この季節だけでいい、私の事…思い出して下さいね」
「………はい」
「…約束です。」

暮れ行く村を見ながら、約束を交わした。

いつか遠い未来、死に別れたとしても。
けれどきっと忘れるなんて無理。分かっていて頷いた。

「じゃあ、御神槌さんも、私が先に死んだら」
「無理ですよ」
「なんで!!?」

あっさり否定を返された事に非難を送った。
返って来た答えは

「私は、貴女がいなければ死んでしまいます」
「………。」
「……盆が終わった、赤トンボのように。」

その言葉が悲しくて
けれど
嬉しくて
私は少しだけ泣いた。

御神槌は自分の恋人の肩を抱き寄せ、暮れ泥む村をいつまでも見続けていた。





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