格闘王者

□タイプを聞かれて相手の特徴を言った
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「そうだなぁ、年下。」

突然の質問に怯む事無く答えたのは、意中の相手が気にしている事だった。

この地に来てから初めて出来た友人はあっけらかんとした美人で、やはり人間…しかも女性となれば気になるらしいそんな話を仕掛けて来た。
『好きなタイプ』、それを聞かれて浮かんだのはタイプとは違えど好きな人。銀髪の生意気な格闘家、自分にとって可愛い恋人。
最近は二人でカフェに入り浸りのんびりとした時間を楽しんでいる。

「年下ぁ!?…意外。ミネルバってば頼れる人が好きなのかな、なんて思ってた」
「嫌いじゃないけどね。年下も、背伸びして頼られたいー、なんてやりだしたら可愛いものだよ」

自分の為にと見えない所で努力しているのを知っている。他の男に負けないよう、まだ身長が欲しいと呟いた事も。

「髪は短すぎず長すぎず、が好き。サラサラしてたら文句は無いし」
「あー…、それ解る。でもさ、自分より綺麗な髪だとちょっとムカつかない?」
「そうそう!引っこ抜きたくなる!!」
「………流石にそこまでは」
「………そう」

前に一度だけ彼の髪を思い切り引っ張った事がある。案の定「痛い!痛いよ何するの!!」なんて叫ばれたが。

「で、髪はなるべく邪魔にならないようにしてるのが良いかなー。」
「結んだり?」
「そうだね、あとはカチューシャとか…あ、シュシュも良いかも知れないね。」
「…………え」

先日は手作りした黒のシュシュを渡したっけ。纏めた髪も相変わらず綺麗だったのを思い出した。
受け取った彼は恥ずかしいだの相変わらず憎まれ口を叩いていたが、大人しく付けてくれたのは嬉しかった。……シュシュが似合う年頃ももうすぐ終わりか…。

「……随分、特徴的なこだわりね。」
「そう?あ、こだわりといえば……爪もかな。確かにちゃんと手入れしてくれないと嫌だけど、買ってきてあげたマニキュアのメーカーにケチつけられちゃあね……」
「…………………………………。」
「それから後は………え、何、どうしたの?」
「……う、ううん。……確かに私が聞いたのはそうだったけど………。
 ……ミネルバって、そういう趣向だったんだ」
「へ?」

彼女は思い詰めたような表情で黙り込み、席を立ちお手洗いの方へ歩いて行く。
調子でも悪くなったのかと頭を傾げるが今さっきまで元気だったのだ、なんで急に?

「……………誤解させるような事言っちゃダメだよ」
「?」

聞き慣れた声の方を向けば相変わらずの少年顔がそこにあった。
何しに来たんだ、と問い掛ける間もなくアッシュは彼女の座っていた椅子を占領して図々しくも注文をし始める。

「ネェ…ミネルバ」
「ん?」
「キミに聞くけど、シュシュで髪纏めたりマニキュアに文句言う男、ボクだよね?」
「アンタの他に誰がいるのよ」
「じゃあもう一つ聞くけど、『男』じゃなかったら?…あと、今さっきの彼女はボクを知ってるの?」
「………………。」

あぁ。と、頭に引っ掛かっていた謎が一気に解けた。同時に席を立って彼女が向かったお手洗いに全力ダッシュ。

「待って、ちょ、誤解だよーっ!!!」
「……ヤレヤレ」

呆れ顔で見送るアッシュに一発食らわせられなかったのは残念だが今はそれどころではない。
ああ、何と言って誤解を解くか。普段使わない言い訳を頭で必死で練り上げながら店員の迷惑も顧みる事無くカフェの中を走っていった。







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