格闘王者

□幸せになりたいの
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「………何、急に」

そう言って目を丸くしたのはアッシュだ。
無反応に近いその態度は見ていてあまり楽しくない。…というか、愛されているのかすら悩む。
確かに、こういう冗談が通じる相手ではない。一筋縄どころじゃない相手だからこそ、と言うべきかアッシュは自分の爪ばかり見ている。…心配すらしてないのか。

「聞いてるの?」
「聞いてるヨ」
「じゃあ答えてよ」
「何て?」
「…………だから、本当にそうなったらどうするのかを」

質問はあまりに馬鹿らしいと解っている。
だからこそアッシュは何も言わなくて、私はただ待っているだけなのだから。

「アハハ、ミネルバ…全部本気で言ってるのかなぁ?」

…どんどんアッシュの目がマジになってきている気がしない…でもない。
にっこり笑った顔が怖いよ、アッシュ。

「…ほ、……本気じゃなかったら何だって…」
「あのさぁミネルバ。少しは自分の立場考えなよ。」

今度はこっちを見ようともしない。
爪の黒を見たまま視線は微動だにしない代わり、指の角度がちらちらと変わるだけ。
その態度は猫、寧ろ獲物に牙をかける寸前の豹のよう。怖いというよりもう死亡フラグがバリ3体制だ。

「……………。解ったわよ、もう言わな―――」
「待ちなよ」

触らぬ神に祟り無し。触ってしまったらもうこれ以上機嫌を損ねぬうちに逃げるしか無い。
しかしその腕を取られて固まった。………手遅れだ。

「ごめんなさいごめんなさい出来心だったんですごめんなさいごめ」
「―――――クス、ねぇミネルバ」

その腕を引き寄せられ、耳元で囁かれるのは



「今更何言ってるの?…気付くの遅くない?」



……………………………。

「は?」
「うーうん。別にぃ?」
「ちょっと待って。今すごく嫌な予感したんだけども」
「気のせいじゃナイ?あー、そうだ新品のマニキュア買ったんだ、塗ってこようっと」
「……そういえば最近アッシュてば私の前でマニキュア塗らなくなったね」
「だって害があったら大変だしね」
「だから何に!!?」


一枚も二枚も上手なアッシュ。



冗談でも本気でも、一生勝てない気がした。







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