格闘王者
□不可思議な恋人
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『ママが言うわ。女が若いうちは手がかかるのは機械と男だけでいいんだ、って』
まさか笑えないそんなジョークを体感するなんて思ってなかったけど。
「フランボワーズは嫌いかぁ」
解り切っていた事だけれど、実際はかなり腹が立つ。
にこやかに言っているつもりでも、言葉尻が厭味なのはもう自分でもどうしようもない。解っている、解っているんだ。
用意した小さな飾り皿の上にあるのはフランボワーズのムースケーキ。一番上に生クリームと生の果肉がちょこんと乗っている。
店では今日のお勧めと銘打たれ、実際残り三個のうちに二つ買ってきたのだ。
こうしている間にも甘い香りは漂い、20分前に出した紅茶は冷めかけている。
「いつも言ってるのに…………。僕は」
「四の五の言わずに食えや」
いい加減勘忍袋もはち切れる。
「仕方ないでしょ!?今日はもうザッハトルテ売り切れてたんだから!!ガトーショコラも!!」
「じゃあホールで買ってくればいいデショ?やだよ、今日はザッハトルテじゃないと嫌!!決めたんだヨ!!」
「なぬを女子(おなご)みたいな事言ってんのよ!!その歯ァ矯正してる針金全部ペンチで切り落とすからね!!」
いやだいやだ、とまだ駄々をこねるアッシュに拳を握る。グーで。
野郎、シバくぞ。
「そんなにチョコレート食べたきゃあ今すぐ自分で買ってこーーーーーい!!!!!」
「ひゃあ、ミネルバ怖ーいっ」
「冗談言ってるつもり?本気で今苛々してるんだけど」
手がかかる、というよりはもう子供。
私はまだ未婚な上にこんなデカイ男の世話なんざしたくないっていうのに。
「――――っ、頭きた!!もう帰る!!」
「あ、帰るの?明日こそはザッハトルテねー」
「…………。」
手が勝手に近場の本を丸めて持っていた。
「覚悟しろこのモノノケ!!」
「ちょ、僕はそんな低脳じゃないよ!!」
「突っ込む所そこか!!」
不可思議?
いいえ、ただの馬鹿です。
終