格闘王者
□魔法が使えるなら、まずはあの人を
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「何のつもり?ミネルバ。」
そう問われて我に返った。
手が勝手に拳銃の形を象り、彼――アッシュを狙っていた。勿論普通の女である自分には、それ以上どうこう出来る訳では無い。
「………。」
何のつもり、と聞かれても返答に困る。たいした理由は無いわけだし、それに自分がどうしてこうしたのかもイマイチ解らない。
「なんとなく。」
そう答えるだけで精一杯だった。
「何となく―――。それで僕を狙ったの?」
「多分。」
気がついたらそうやっていた。理由はそれ以外に無い。…どう説明したものか?
それはともかく、背中を向けて座って爪の手入れをしているアッシュに何故解ったのかそれが不思議でならないのだが。
「私にアッシュみたいな炎が使えたらね」
「……」
「そうしたらアッシュを1番に狙ったかも知れない」
その顔にあの闇を宿らせ、この命を奪うかそれとも差し出すか。
それを考えて一瞬だけ過ぎった高揚を振りほどくように首を振った。
「何を言うかと思えば…」
それはアッシュには鼻で笑うような瑣末事。
悲しい位に小さな扱いをされるこの感情が悲しくなって目を伏せた。
「……ねぇアッシュ」
「なに?」
「大好きよ。」
その首に肩に絡み付くように腕を回した。
マニキュアの微かな刺激臭が鼻に刺さったがそれも気にしない。
「だから、お願い。」
その命が誰かに奪われるよりは
「私を置いていかないでね」
「………ミネルバ…?」
私の手で奪ってしまうほうが確実に楽だから。
「約束はしないけどネ」
魔法も力もなにも問いません。
願わくば貴方が誰にも奪われないようにと
「…………。」
そう願うのは人の道外した事なのでしょうか。
終