格闘王者

□拳銃に詰めた猟奇
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デザートイーグル

シグの小さな銃身にもときめくものを感じるが、美しい黒の無骨さに惚れてしまえば他に対する気持ちは浮気にしかならない。
グリップを握り撃鉄に指を掛ければ恍惚を感じ、どことなく感じる倒錯に快感を覚える。

銃を持つ自分に酔う、という状況が、自分でもおかしいのは解っていた。

「―――何のつもり?ミネルバ。」
「……――。」

銃を向けた先にはアッシュの瞳があった。
零距離で眉間に当てた銃口は震える事なく位置付き、極自然にそこにある。
彼の胸を跨ぎ、両腕を膝の下に敷き、体重を掛けて固定させる。

「私、アッシュの事が好きよ」
「知ってるヨ」
「愛してるの」

この引き金を引けば何が起こるか誰でも予想は付くはずで。
張り詰めた空気の中、それでも払い避けようとしないアッシュの態度に笑みが零れた。

「余裕のつもり?アッシュ」
「君にボクは殺せないでしょ」
「なんでそう思うの?」

貴方ならば私を振り払う事等訳無いのに、それをしない事に苛立ち奥歯を噛む。
妖しく艶かしい指が太腿を探り、思わず身震いした。

「ボクが君を愛してるから。」
「………。」
「だって」

砂漠の荒鷲をも鎮めるような笑顔と、反して凍り付くような冷たい言葉。
使い分けるその熱と冷気。生まれ持っていた天性のその才能に鳥肌が立つ。有無を言わさないその言葉のひとつひとつがとても、綺麗で。

「愛してる男に銃を突き付けるような君を、他に誰が愛するっていうの?」
「……………。」
「ボク以外居ないデショ?…ねぇ、ミネルバ。」

綺麗で。

「………ふ、うふふっ」
「……。」
「そうね、貴方以外いない。誰も居ない」

歪みきった世界の基準での美しさ。
貴方だって同じな癖に。
愛してると紡ぐ唇はどれだけの嘘を織り交ぜて来た?建前を使い分けて本音を躱し続けた貴方を、私以上に愛する女なんていない。――――絶対。

「ねぇアッシュ」
「何?」
「引き金、引いていい?」
「君が後悔しないならね」
「する。でも、引いていい?」

愛する貴方をもっと愛していたいから。

「ダメ。」
「……残念……」

動かない貴方をこの身を以て守り抜いてあげよう。
貴方には苦痛も喜びも悦楽も退屈も何も何も感じさせて、あげない。

「…アッシュ」
「なに?」

それが叶うなら私はなんて幸せ者なんだろうか。

「私に、本当に貴方が殺せると思う?」
「………」

アッシュの指はデザートイーグルの銃口を辿り銃身へ。
黒く塗られた綺麗な形の爪がその黒に立ち、侵食していく。

「こんな玩具で殺せる?」
「……」
「コッキングタイプのエアガン…。こんな安っぽいBB弾でボクを殺せるって?」
「気付いてた?」
「気付かない方が可笑しいヨ?そんなに貧相なプラスチック」

不敵に笑うアッシュに笑みながら、撃鉄に力を込めた。

    ――――カシッ

音だけを立てたそれからは何も出てこない。
乾いた沈黙はただ静か過ぎる程に。

「――――アッシュ」
「今度は何、―――」

アッシュが言い終わる前に、その唇に唇を重ねる。

消えてしまえ。この愛を拒む貴方なら今すぐに。

投げ捨てたエアガンが床に転がる。
熱を渡し奪うように、何もかもを混ぜ合うように深くキスを捧げながら、深みまで堕ちていく。


殺したい
程に

愛してる。






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