無限ノソウル
□届け想いよ
1ページ/1ページ
空と地上との地平線が見えた。
青と緑の境界は、霞む事なく鮮やかな色のままにそこに在る。地上を滑る風は草を揺らし、どこまでも行くかのように思える。
血生臭いものから切り離された、どこか世離れした景色は、間違いなくこの世のもので出来ているというのに。
この世界を謳う術を知らない。
この風につけて良い名前も。
自分に不釣り合いな景色に目を奪われている癖に、それに届こうと少しでも頭を働かせる自分が可笑しかった。
地平線には終わりがあると知っている癖に、今目の前のそれは例外のような気がして。
地平線
その向こうに。
「………――。」
呟いたそれは風が流してくれた。
目に染みる緑と青に、腕をそっと上げた。
大陸の争いは収束を迎え
穏やかな日々が戻ったというのに
ただ、君がいない。
季節は巡り、君の事を考える時間は少なくなり、毎夜君を夢で見ることも無くなった。
この大陸は、平和と引き換えに君を失った。否、君から出ていった。
この風の出所は君だろうか?それとも、君自身だろうか。
……もう、生死さえ知る術が無い。
「君は」
上げた手を握り、ゆっくり下ろす。
どんな手を使えど、風を捕まえるなんて無理な話だ。
「……最後まで、一陣の風だったな」
自由で掴み所もなく。
見えなくても此処にあり。
表情も感情も豊富、何故そこまで気まぐれなのかわからない程に。
この空は君の場所まで続いているのだろう。
ならば、この風もいつか君の許まで戻っていくだろうか。
願うは、君の風が止まない事を。
終